kirakira
2011
01/31
17:31:21
【アイマス×ダンセイニ】 ミクの祝福

 第一章 わっほい街のアイドル

 ここ数日というもの萩原雪歩は悩み事を抱えていて、まず疑いが恐怖へと募ってゆき、事実と分かってみると、取るべき手段を思い悩み、うじうじと自分に言い逃ればかりしていた。
 一日延ばしにしては悶々と迷いの禅問答を繰り返して、結局は、高木社長に手紙を書かないといけない、という結論に行き着くのだった。
 そしてそれが決まってみると次は「社長はどう思われるだろうか」、「火曜日は事務所にいるのかしらん」、「明日までに書けば速達で早く着くかなあ」と思い惑う。
 夕暮れが近づくと、またあの不思議な歌声が月光のように大気を刺し貫き、雪歩感じるところの恐るべき魔の声音で黄昏を震わせて丘から響いてくる時刻が迫っていたのである。
 今日という日、雪歩はもうためらわず、書斎に行ってペンと紙を取り出した。同棲している天海春香が何となく言葉をかけたが、空気を読んで雪歩の作業の邪魔はしなかった。というのも雪歩の表情から、ここ数日考えあぐねていたらしい問題に対処する気になったことを読み取ったからだ。
 雪歩は急いでペンを走らせた。ポエムと違って難しいのはとにかく出だしだけで、あとは書くだけだ。ここ一週間に心の中で繰り返してきた文句が溢れ出て、それを手紙に注入するだけでよかった。
 さて、これが雪歩が書いた社長宛の手紙の要約である。


 拝啓

 私はとても困惑していて、高木社長の御助言指導を仰ぎたいんです。このわっほい街は、フューチャー・クリプトンと自称するアイドルのごく短い活動中に、はっきりとした証拠はないのですが、覆水が盆に返らない害を受けたことがありました。クリプトンが姿を消してから、現在は私が活動するこのわっほい街ではアイドルの仕事が困難を極めて、それがいまだに続いているという事実を知っておいてほしいんです。
 その事実というのは、日没の直前か直後、丘の方から歌声が聞こえてきます。それは笛の音から始まって歌に変わり、六月の今では毎晩聞こえてきます。月明かりに聴くこともあります。私はある夕方、丘の斜面へ行ってみました。歌声は澄み切っていましたが、歌い手の姿は見えません。そのとき街の若い人たちが歌声を求めるようにして丘を上がって行くのが目に入りました。しかも、私を見ると、用心深く道を変えて丘へ向かうんです。社長にご迷惑をおかけしますことを承知で、できる限り事実をお話したく思いましたが、今こうして書いてみるとひんそーすぎて私の困惑を説明するのに証拠不十分です。とにかく以上のことが頻繁に起こったというしかありません。だけど、どうか信じて下さい。その歌はありきたりの声音じゃありません、あんな声色の歌は知りません、春香ちゃんの音程さえ理解できるほどの力です、ですからこの問題に関しましてどうか社長のお力をお貸しくださいますよう、お願い申しあげます。

 六月十日 765プロの忠実なアイドル萩原雪歩


 それから雪歩は、春香のいる隣の部屋へ行った。
「遅かったね雪歩。ケーキを焼いたけど、すっかり冷めちゃったよ」
「ごめんね、春香ちゃん。最近、とっても弱っちゃってるの。あの夕暮れの歌声なんだけど。何なのかさっぱり分からないよ。……それで社長に手紙を書いたの」
「あの歌声はやよいだよ。笛は何かの草で作ったもので吹いてるんだと思う」
「やよいちゃんかぁ。だけど彼女が、どうしてあんな歌声を知っているのかな」
 それから書き終えたばかりの手紙に目をやって、雪歩はじっと考えこんでしまった。そして考えれば考えるほど自分は無駄に社長に手間をかけさせようとしているように思えてくるのだった。
 高槻やよいが歌と笛を奏でて、若者たちがそれに興味を持とうと、そんなことは取るに足らないことで、そういった内容の手紙を765プロの事務所へ送るのは軽率なのではないか。あの歌声と笛の音は確かにどこかおかしいのだが、目の前の手紙を見ていると、社長をわずらわせる罪悪感の方が先立って、いつものようにネガティブ思考に逆戻りするのであった。
 そこへ実家のお弟子さんがやってくると、雪歩の心はなおのこと常識に傾いてしまうのであった。
「お嬢、郵便物がおありでしたら、出してきますよ?」
「ううん、ないですぅ」
 それでお弟子さんは、食料品店の買物メモを持ってスーパーへと出かけていった。
 やがて、空を燃えさかる焔に染め、地上に闇を深め、冷気を一掃して太陽がののワの丘に沈んでゆくと、その高みからきらめく旋律が、人間の考えなど遠く及ばぬほど遙かな未来の電子世界から漂ってくるような澄み切った心かき乱す調べが湧き起こり、それから曰く言いがたき歌声が街へと丘を流れていったのである。
 その声音は人間と機械の混濁した魔的で雪歩の心を恐ろしいまでの憧れでいっぱいにし、恍惚として立ちつくすというより、思考という思考、感情という感情、意識そのものまでが、現世を隔てた異界へ運び去られてしまったかのようだった。
 唐突に歌が途絶え、黄昏に静寂が戻ると、ゆっくりが解説するように日常の思考が戻ってきた。
 雪歩はとっさに封筒を取り出して、765プロ事務所、高木順一朗宛の手紙を封入すると、大急ぎで郵便局へと駆け走った。


ーーーーーー

ということで、唐突に不定期連載の小説など。
ダンセイニ卿の長編「牧神の祝福」をアイマスでなぞる内容となります。あくまで不定期なので続きはいつになるかわかりませんし大きく間が空いたりすると思いますが、のんびり最後まで書いていきたいところ。
ニコマスでやってもよかったのですが、動画にする余裕などないので……。

なお、夢の在り処の2話はまだ完成の目処がたっておりません。1話アップからもう一ヶ月が経過しようとしてますが、2月上旬にアップできればいいなという按配です。
kirakira
kirakira
プロフィール

皇帝栄ちゃん

Author:皇帝栄ちゃん

クトゥルー神話、ロード・ダンセイニやアルジャナン・ブラックウッドの小説、一昔前の海外怪奇幻想小説、織田作之助、アシジの聖フランシスコなどが好きな這いまわる偽善者。永遠属性持ち。ハッピーエンド至上主義。

東方は早苗さん好きで、霊夢と早苗のカップリングがお気に入り。アイマスは橘ありす好きで、ありすと幸子のカプがお気に入り。


新刊「永遠のレイサナ」とらのあな様にて委託販売中。


■自作動画
東方MMD短編
東方MMDシリーズもの

メールフォーム

kirakira
kirakira
検索フォーム
kirakira
kirakira
月別アーカイブ
kirakira
kirakira
QRコード
QRコード
kirakira